あらがう3
今回のブログも、前々回、前回からの続きとなります。
ようやく完結となるので、
何のことか分からない方は、2回前から読んでもらえれば幸いです。
母の指輪が、父からもらったモノではないと知り、
すっかり“切ってしまえ”モードの私たち。
その一方で心優しい看護師さんたちのトライは続く。
ある者は、ひたすら引っ張り、
ある者は、石けんで滑らせ、
ある者は、回しながら引き上げる。
しかしいずれも第二関節に集まった肉塊が、
それ以上指輪が進むのを阻む。
「昔は細かったんですけどね〜、
仕事してたのでお肉ついちゃって」
「そうですよね〜、
ご苦労されたんですよね〜」
肉が付いてしまった指を仕事のせいにする母と、
それをやさしく受け入れる看護師さんとの
The社交辞令な会話が繰り広げられる。
母は、なぜか肝心な指輪の真実を語ろうとしない。
真実を言えば、看護師さんたちも心置きなく
切ると言えるのに…。
そうか母よ、わかったとも。
ならば私も黙ってこの闘いに挑もう。
「もうこれは抜けそうもないので、
切るしかないですよね〜」
「前々から、外したいと思ってたんですよ」
「これ以上引っ張ると指が痛そうですよね」
巧みに言葉を変えながら、
看護師さんの「切りましょう」という
決断を引き出すのに必死になる。
この攻防は平行線のまま、
入院2日目となる手術当日まで引っ張ることとなる。
そして手術開始1時間前。
初めての手術に緊張する母の元に、
最後の猛者が現れる。
猛者は細い糸と手洗い石けんを携え、
指と指輪の間に紐を通して、引っ張ってみてくださいと言う。
そしてまた忙しそうに去っていく看護師さんを尻目に、
一応、紐を通してみたりするが、
本音では「いやいや、こんな紐じゃ無理でしょ」と毒づきながら、
まったくやる気のない私たち親子。
数分後、戻ってきた看護師さんに、
「いや〜、やっぱり抜けないですね〜」
と目一杯悔しそうに語る。
すると看護師さんは、
そんなダメな親子には見切りをつけ、
自分で指輪を抜こうと母の指に手をかけた。
手に石けんをつけ、
指輪と第2関節の間に寄せ集まったお肉を、
少しずつ少しずつ、指輪の下へと移動させ始める。
そして!!
ついにその時がきた!!!!!!!
「あ、抜ける!」
母の声がこだまする。
「うそでしょ!」
正直絶対無理だと決めつけていたので、
にわかに信じられなかったその言葉。
見てみれば、
あれほど指輪を阻んでいた間接の肉の壁がうすくなり、
あと少しでその壁を越えようとしている。
「うそ、抜ける、抜ける!!」
そしてあらがい続けた指輪はついに、
何十年も共にあった母の薬指から離れたのだ。
これはもう、奇跡、感動、興奮!
私たち親子にとって、
すっかり主治医の先生以上にヒーローと化した看護師さん。
「よかった!本当にありがとうございます!」
母はしきりにお礼を言っている。
私はもう「すごい、すごい」と関心しきり。
外れてみると、思った以上に小さな指輪は、
鈍い光りを放ちながらも、
なんだかとっても愛着を感じた。
この騒動のおかげ(?)ではないかもしれないが、
母の緊張も少しはほぐれ、
無事に手術を終えることができた。
初めての手術という思いがけない出来事は、
思った以上に思いがけないことが起こったけど、
まあ、これはこれでいい経験だったような気がする。
ただ、あれほど頑なに言わなかった指輪の真実を、
ブログでベラベラしゃべってしまったことは、
永遠の内緒だけどね。
ごめんなさい。