子猫物語(上)
我が家の近所に住みついている野良猫が2匹の子猫を生んだ。
やせっぽっちのオス猫と足が不自由なメス猫。
2匹は野良猫らしい警戒心に満ちた目を、駐車場の片隅で光らせていた。
野良猫と言えばその糞尿問題で、
全国のどこの町内でも大人たちの頭を悩ませていることだろう。
餌付けなんてもってのほかである。
さて、我が家の2匹、否、2人の息子たち。
そんな大人たちの杞憂などどこ吹く風で、
オス猫をトニー、メス猫をメメちゃんと呼んで、
毎朝、毎夕、子猫たちの元に通い、何とか手懐けようと苦心していた。
とはいえ、障害を抱えた野良猫だ。
そうそう簡単に心を開いてくれまい。
「今日はあそこを引っ掻かれた」「噛まれたから消毒して!」と、
朝から騒々しいったらありゃしない。
そんな我が家の息子たちの様子を見て近所の大人たちがとった行動は?
まず、最も糞尿の被害を被っているであろうお宅のおばあちゃんが、
子猫たちのためのトイレを用意してくれた。
そして、そのお隣のお父さんはせっせと残飯を運んでくれた。
ビバ 下町!なんて、温かいのだろう!
周囲の大人たちの隠れた支えもあり、
子猫たちは少しずつ我が家の息子に心を開き始めた。
足が不自由なメメちゃんは逃げることをあきらめた、と言った方が正解か。
やがて抱っこすることを許され、
そしてついに、子猫は息子たちの後をついて歩くようになった。
努力は報われ、確かな友情が育まれたのだ!
近所のおばあさんやお父さんは、その様子を嬉しそうに私に語ってくださった。
子どもと子猫のささやかで愛おしい時間。しかし、この幸福は長くは続かなかった。
日曜日の夜、近所のおばあちゃんが我が家のインターフォンを鳴らした。
モニターを通して目を腫らしていることがわかる。
私は息を飲んだ。
そして、子どもたちに気づかれないよう玄関に出た。
長くなったので続きは次回。